月夜見 
残夏のころ」その後 編

    “ご都合主義のBサイド”


産直スーパー“レッドクリフ”は、
近隣の農家の方々から提供される新鮮な野菜を中心に、
あくまでも良心的な、アットホームなお店を目指しており。
売り出しもほぼ毎日ならば、
お値打ち品の品揃えもそりゃあ万全で。
お来店くださるお客様がたは元より、
パートの奥様たちやバイトの学生さんたちも、
それは溌剌と朗らかに、お仕事をこなしてくださる、
笑顔の絶えない店としても有名で。
そんな朗らかさの象徴とも言えよう、
お天道様みたいなお元気坊やだなんて、
皆々様から呼ばれてもいるほどの、
満面の笑顔が人気の高校生。
いつも青果ヤードのどこかにいる筈の、
ちょっぴりちんまい男の子が……

 『何でだろうか、ここ数日ほど挙動不審で』

……というお話を、
ほんの半月ほど前に展開させていただいたのだが、
皆様ご記憶でおいでだろうか。
その発端となったのは、
もう少し逆上ったとある定休日のこと。
小売店には付きものな、
売り上げ帳簿と実際の在庫とが
数値的に合ってるかどうかを突き合わせる、
棚卸しという作業中に起きた、
それはそれはささやかな突発事…なのだけれど。

 『えっとあの………すいません。//////////』

こっちに来かかったゾロが何かにつまずいて、
そっから延ばした手へこっちからも咄嗟に手が伸びていて。
いやそれはいいんだ、よくあることだもん。
ただ、ゾロってやっぱ体格がいいし、
思わぬ拍子にこけると
その勢いも止まるところを知らねぇっていうか
加減が利かねぇってゆーか、
そういうことはままああるっての、
エースとケンカしたりふざけたりしてる時とかにも
よくあったから、
別に何とも思わねぇんだけれども。

 『〜〜〜〜〜〜っっ。////////』

痛くないようにってあんな咄嗟な時も反射が利くのは凄いよな。
倉庫のコンクリの床へ転げないようにって、
せめて自分の上へ落っこちるようにって。
懐ろへぐいって引っ張ってくれてさ。
そいで、ゾロの顔が凄んげぇ近くなって、
それでなくても転びそうになったんでって、
わぁって咄嗟に目ぇつむっちゃったけど。
ぼふっと受け止めてくれた感触は、
かちんこちんに冷たくも堅くもない、
ちょっと古めのソファーみたいな感じだったし。
(…庇われた身でそれは失礼だぞ、先輩)
向かい合ってての庇い合いだったので、
逆さまになって倒れ込んでしまったお互いで。
え? あ、うそうそ? これってゾロの懐ろじゃんかと、
ドギマギしながら起き上がったその拍子に、

  ― 何だ何だ、何んか当たったぞっ☆

微妙に呆然としていたからか、
“大丈夫っすか?”としきりに心配されちって。
ぼんやりしてたんで頬をそおっと撫でられて、
それで気がついたのが、この感触じゃなかったってこと。
当たった側もここじゃあなかったし、
当たった何かも もっと柔らかいとこだったよな、と気がついて。
頬っぺかな、
でもゾロって顔の肌もなんか堅そうだぞ。(こらー。)

 『目眩いがするとかないですか?』

何ならトラック借りて来て家まで送りますよとまで言われ、
ぼんやりしたまま、
そんな言葉を紡いでる、
相手の口許ばかりに目がいってたルフィさんが、

  ふっ、と。

  鼻の頭でないならば、
  もしかして此処だったんじゃあなかったか?と

思った途端に思考回路がショートをし、
全身がフリーズしちゃった小さな先輩さんだったのであり。





  さて、その後。


一応は店にも出て来て、
仕事にも勤しんでるようではあるのだが。
それにしちゃあ……何とも挙動不審すぎる坊やだったのへは、
所属の青果部門のみならず、
日用食品、雑貨、運搬部の皆様までもが、
それぞれの思惑に沿うての
“おやぁ?”という訳知り顔になったほど、

 何かあったな?という、
 遠からずな線でピンと来ていたのだけれど。
 (人生経験豊富な大人を舐めちゃあいけないよ・笑)

直接にはお顔を合わせにくいのか、
問題の後輩さんが搬入の荷を持っていっても
現場に居ないことが多いのだが。
そうとしながらも、
じゃあ避けているのかというと そうでもないから、
ややこしいというか判りやすいというか……。

 「…あれ?」

トマトの搬入にと足を運んだ青果売り場。
この時期は陽気がいいと風が渡るのが何とも心地のいい、
外へと大きく開放されたテントスペースに、
搬入部のおじさんたちお手製の陳列台を並べた格好の。
“旬の売り出しコーナー”のどこにも、
あの小さいがお元気な先輩の姿は見当たらず。
休みなら代わりが居るはずなんだがな、
誰もいないってのはどうなんだろか。
そろそろ昼からのラッシュが始まんのになと、
主にはそこに居たはずな、
白菜やホウレンソウの売り場を眺めつつ、
空になった段ボール箱、
よそ見しているとは思えぬ手際で畳んでしまうと、
そんじゃあよろしくと、バックヤードへ戻っていったが。

 「何ぁんか気にしてはいるようなんだがな、
  こっちのあんちゃんも。」

マスコットでもあるルフィの不審な行動に
まず気づいた周囲としては、

 「そりゃあまあ、
  あんな可愛い子にまとわりつかれりゃ
  悪い気はしなかろうさ。」

それでなくとも最近じゃあ兄弟も少ない家が多いから、
小さいのに懐かれると構いたくなる兄貴肌の奴にすりゃ、
あの坊主なんてのは、
ついつい目が行く放っとけねぇタイプに違いねぇだろしと。
あくまでも のほのほとした見解にて
(笑)そんな方々が見守る中、

 「おお、こんなところに居たんかゾロ。」

探してたんだと、
戸口から出て来たおりも大きく左右を見回してた店長が、
そりゃあ軽快な足取りにて駆け寄って来。
この人も年齢不詳で通るよなという朗らかさ、
にぱーっと全開で笑いつつ、口にしたのが、

 「ルフィーの奴が、」

その途端、両腕で胸元へ抱えていた段ボールの束が、
それは景気よく どさーっと真下へ落ちており。
わわっと飛びのいた相手の動作を見て、
ああすんませんと気がつく鈍さは、

 “…あれれぇ?”

名うての剣豪にしちゃあ、
ちょっとあり得ないんじゃあなかろうか。
何とはなく関心がありますという、

 “これまでの反応とは…まるきりゲインが違うんじゃね?”

自分の失態だし荷物だしという自然な流れ、
平たく畳まれた高知トマトの箱を、
身をかがめて拾いあげつつも、

 「えと、ルフィ さんがどうしました?」
 「ああ、うん。それがな。」

話が断線したのへちゃんとフォローもするのは
如才のないことだったが、
そんな彼へと、

 「向こうの乾物売り場で、
  売り出しにって積み上げてあった顆粒だしの箱の山、
  一気に崩しやがったんだよな。」

ほんのついさっき自分の間際で起きたこと、
まずは何の含みもないまま告げてやった赤毛の店長。

 「ただ、あいつってば不器用だからサ。
  誰かの助けなしじゃあ、
  ちゃっちゃと済ませられるとも思えねぇし。」

  ばさばさばさ、おっとっと

 「それにタッパも足りないし、
  脚立を持ってくりゃ
  売り場が狭くなるんでよろしくないってんで。
  背の高い奴を助っ人につけようかと思ったんだが。」

  がさばさ・どさばさ、おっととと

 「……お前も助っ人が要る状況なのかな? もしかして。」

何をどう焦っておいでやら、
他の奴を探そうかと立ち去りかかれば、

 “きっともっと狼狽するに違いないんだろうな”と。

こんな格好で、
こっちの彼のほうにも“心当たり”が実はあるらしいと
あっさり見極めてしまったあたり。


  やっぱり相当に
  おタヌキ様だったらしいです、赤毛の旦那も。
(苦笑)
  でもでも、あんまりしつこく純情ヲトメをからかうと、
  後でしっぺ返しが来ますよ、旦那。




   〜どさくさ・どっとはらい〜  2011.05.31.


  *カウンター 382、000hit リクエスト
    ひゃっくりさん 『キッ○事件の後輩さんサイドのお話』


  *こないだの キッ○事件の続き…といいますか、
   ゾロの方は何ともないのか自覚していないのかということで、
   後日談をとのリクをいただきましたvv
   (FC2さん、またまたダブルカウントしてくれたようですが、
    こういう不具合は嬉しいので バッチコイですvv)
   あの朴念仁も、
   実は…何かしら気づいて抱えていたようですね、この反応。

   「そういや食堂で飯食ってても、
    箸でカレーを食おうとしてやがったし。」
   「こないだも、
    車のタイヤ止め(坂道でタイヤにかましておくアレ)で
    結構高いタワー作ってやがったし。」

   こっちの彼の挙動不審も、
   探せば結構あったらしいですよ、旦那。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv

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